山本智之の「海の生きもの便り」

2026年1月 Writer: Tomoyuki Yamamoto

第58話 和食を支える「コンブ」

海底を覆うオニコンブ(北海道羅臼町沖)の写真

海底を覆うオニコンブ=北海道羅臼町沖、山本智之撮影

■日本の海に11種が分布

 北海道・知床半島の羅臼町沿岸で潜水をすると、海底をびっしりと覆う「オニコンブ」(Saccharina japonica var. diabolica)の海中林を見ることができます。

 オニコンブは、北海道東部の海域に広く分布しています。このうち、羅臼町の沿岸で漁獲されるものは、「羅臼昆布」というブランド名で流通しています。その「だし汁」は黄色みを帯びており、コクのある味わいが特徴です。

(左)オニコンブ、(右)天然のオニコンブをとる漁業者の写真

オニコンブ(左)、天然のオニコンブをとる漁業者(右)=山本智之撮影

 北海道大学の四ツ倉典滋教授(藻類学)によると、一般に「コンブ」と呼ばれる海藻は、コンブ目コンブ科のうち、「カラフトコンブ属」「トロロコンブ属」「ネコアシコンブ属」のいずれかに含まれ、日本の海に11種(地域変種を含めると14種類)が分布しています。

 その一覧を表にまとめると、下記のようになります。

日本の沿岸域に分布するコンブ11種の表の画像

 

■「日高昆布」の和名はミツイシコンブ

 コンブは種類によって、その用途が異なります。「マコンブ」(Saccharina japonica var. japonica)やその地域変種である「リシリコンブ」、「オニコンブ」は、いずれも高級な「だし用コンブ」として重宝されています。

 日本のコンブ生産量は、天然ものが69.5%(2023年)と約3分の2を占め、残りの約3分の1は養殖ものです。日本国内で養殖の対象となっている主な種類は、マコンブ、リシリコンブ、オニコンブの3つ。このうち、養殖生産量が最も多いのはマコンブです。

 スーパーでよく見かけるコンブに「日高昆布」がありますが、これは「ミツイシコンブ」(Saccharina angustata)の流通名です。ミツイシコンブは、食べるのにも、だしを取るのにも向いている「万能コンブ」です。

店頭に並ぶ「日高コンブ」和名は「ミツイシコンブ」の写真

店頭に並ぶ「日高コンブ」。その和名は「ミツイシコンブ」=山本智之撮影

■ネコアシコンブで「昆布水」

 「ネコアシコンブ」(Arthrothamnus bifidus)は、釧路~根室の太平洋岸に分布。葉状部の一部が耳たぶのように変形した「耳形体(じけいたい)」という突起を作るのが特徴です。その茎状部と根状部が、猫の足に似た外見になることから「ネコアシ」の名がつけられました。

(左)ネコアシコンブの乾燥品と(右)昆布水の写真

ネコアシコンブの乾燥品(左)と昆布水(右)=山本智之撮影

 ネコアシコンブには、糖アルコールの一種で甘味成分の「マンニット (mannite)」が多く含まれています。このため甘みがあるのが特徴で、「おぼろ昆布」や「とろろ昆布」に加工されます。また、水に漬けて「昆布水」を作るのに向いており、飲用されています。

 ちなみに、「おぼろ昆布」というのは乾燥したコンブの表面を1枚ずつ削ったもの、「とろろ昆布」は複数のコンブを重ねてその側面を削ったものです。

■ガゴメコンブはサプリの原料に

 「ガゴメコンブ」(Saccharina sculpera)は、津軽海峡~噴火湾やサハリンに分布。藻体の表面にある龍紋(りゅうもん)状の凹凸が、とてもよく目立ちます。ガゴメコンブも「おぼろ昆布」や「とろろ昆布」に加工されます。

(左)「ガゴメコンブの乾燥品、(右)ガゴメコンブで作った「とろろ昆布」の写真

ガゴメコンブの乾燥品(左)、ガゴメコンブで作った「とろろ昆布」(右)=山本智之撮影

 ガゴメコンブは水溶性の食物繊維「フコイダン」を多く含んでいます。高血圧や動脈硬化などの予防に効果があるとされ、サプリメントの原料としても使われています。

左から「ミツイシコンブ」「ネコアシコンブ」「ガゴメコンブ」(いずれも四ツ倉典滋・北海道大教授提供)の写真

左から「ミツイシコンブ」「ネコアシコンブ」「ガゴメコンブ」=いずれも四ツ倉典滋・北海道大教授提供

■長さ15m超に育つナガコンブ

 日本のコンブの中で、藻体が最も長くなるのは「ナガコンブ」(Saccharina longissima)です。最大で15mを超し、産地での干し場の眺めは壮観です。

(左)ナガコンブ、(右)天日干しされるナガコンブの写真

ナガコンブ(左)、天日干しされるナガコンブ(右)=山本智之撮影

 日本の天然コンブの中で、最も漁獲量が多いのがナガコンブ。沖縄の伝統料理に欠かせない食材でもあります。しかし、ほかの種類のコンブに比べて、その知名度は全国的にあまり高くありません。

 その理由について、四ツ倉さんは「私たちがふだんスーパーの店頭で目にするのは、マコンブなどのだし用コンブや、万能コンブであるミツイシコンブであることが多い。一方、ナガコンブは、昆布巻きや佃煮、おでん用の結び昆布など、主に加工品として流通している。このため、天然コンブの中でいちばん量が多いにもかかわらず、消費者にあまりその名が知られていない」と話します。

■コンブが分布しない中国、なぜ「生産大国」に?

 スーパーの店頭では、中国産のコンブを使った昆布巻きなどの加工品もよく見かけます。ところが、四ツ倉さんによると、もともと中国の沿岸にコンブは自生していませんでした。

 1920年代に、北海道南部からマコンブの種苗が付着した材木が中国へ輸出されたことがありました。これがきっかけとなり、のちに中国でコンブ養殖が行われるようになったといいます。

 日本でコンブの養殖が始まったのは1960年代後半からですが、中国ではそれに先立つ1950年代に、コンブの養殖が始まりました。現在その生産量は、日本よりも桁違いに多く、年間180万トン以上に拡大しています。

 そして意外なことに、中国の中でコンブの養殖生産量が最も多い地域は、暖かい南部の福建省です。コンブは本来、冷たい海でしか育たないのに、なぜ温暖な海で養殖ができるのでしょうか。その理由について、四ツ倉さんは①コンブの育種を積極的に進め、高水温に強い養殖品種を作っている ②コンブの生活史の中で特に高水温に弱い「配偶体」や「幼胞子体」の世代を陸上の水槽で育て、水温の影響をあまり受けない葉体サイズにしてから海中で養殖している、という2点を挙げます。

 中国で生産されているコンブのほとんどは、ロープに種苗を組み込んで育てた「養殖もの」のマコンブです。近年は、マコンブとナガコンブを掛け合わせた品種も作られています。

■温暖化で減るコンブ

 コンブは冷たい海に生える海藻です。その多くは、海水温が低いロシア極東海域に起源があると考えられています。日本の天然コンブの分布の南限は、太平洋側は茨城県北部、日本海側は青森県北部とされています。

 北海道産のコンブは、全国の生産量(天然と養殖の合計)の94.8%(2023年)を占めています。ところが、その北海道で、この約30年間にコンブの生産量は約3分の1へと減少しました。北海道水産物検査協会によると、2024年度の生産量は8213トンで、1万トンの大台を割り込みました(=棒グラフ参照)。

北海道のコンブ生産量の推移の棒グラフの画像

 

 コンブの生産量が減ってしまった大きな理由として、温暖化による海水温上昇の影響が指摘されています。北海道では近年、日本海側を中心に、水温上昇の影響でキタムラサキウニ(Strongylocentrotus nudus)が増え、せっかく海底の岩の上に生えたコンブの幼体が食べ尽くされる現象も目立つようになっています。

 北海道大学の研究チームが行ったコンピューターシミュレーションの研究によると、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第5次評価報告書で示された4つの気候変動シナリオのうち、今世紀末までの地上気温の上昇を1.1~2.6度とした中位の「RCP4・5」シナリオの場合でも、ナガコンブやネコアシコンブなど4種のコンブが、日本の海から将来、消える可能性が高いことが示されました。

 高いレベルで温室効果ガスの排出が続く「RCP8.5」(高位参照シナリオ)の場合、海水温がさらに上昇し、ミツイシコンブなど計6種が日本の沿岸から消滅する可能性があるといいます。

 海水温の上昇への対策として、四ツ倉さんはいま、企業などと共同で、高水温でも育つマコンブの新品種づくりの研究を進めています。

■海の生き物を育むコンブの林

 コンブの海中林には、陸上の森林と同様にさまざまな生き物が暮らしています。「コンブ藻場」と呼ばれ、魚たちが産卵や子育てをする大切な場所になっています。小魚やエビ、カニなど多くの生物が隠れ家として利用し、ウニやアワビ類にとっては餌としても重要です。

オニコンブを食べるエゾバフンウニの写真。藻体にあいた小さな穴は、ウニによる「食痕」。

オニコンブを食べるエゾバフンウニ。藻体にあいた小さな穴は、ウニによる「食痕」=山本智之撮影

 和食の「だし文化」を支える重要な海藻であるコンブには、海を豊かにし、生態系を支える役割もあるのです。もしも日本のコンブが将来、激減することになれば、和食文化の存続が危ぶまれるだけでなく、コンブ藻場に暮らす生物も減り、様々な魚種を対象とした漁業にも悪影響が及ぶ恐れがあります。

 海中に広がるコンブの林を守ることは、そこに集まる魚介類を守り、海の資源全体を保全することにつながります。四ツ倉さんは「コンブを守るためには、消費者がコンブのことをよく知り、危機感を持ち、そしてコンブを食べ続けることが大切だ。そうすれば、漁業者や行政関係者、研究者を動かし、いまの難局を乗り切ることにつながる」と話します。

■筆者プロフィール

科学ジャーナリストの山本智之氏の写真

山本智之(やまもと・ともゆき)
1966年生まれ。科学ジャーナリスト。東京学芸大学大学院修士課程修了。1992年朝日新聞社入社。環境省担当、宇宙、ロボット工学、医療などの取材分野を経験。水産庁の漁業調査船「開洋丸」に乗船し、南極海で潜水取材を実施。南米ガラパゴス諸島のルポを行うなど「海洋」をテーマに取材を続けている。2025年2月には、海上保安庁の巡視船「そうや」の海洋観測に同行した。朝日新聞科学医療部次長、朝日学生新聞社編集委員などを歴任。著書に『温暖化で日本の海に何が起こるのか』(講談社ブルーバックス)、『ふしぎ?なるほど!海の生き物図鑑』(海文堂)ほか。X(ツイッター)は@yamamoto92