山本智之の「海の生きもの便り」

2026年9月 Writer: Tomoyuki Yamamoto

第62話 海の宝石「タカラガイ」

海底を這う「ハツユキダカラ」の写真。静岡県・伊豆半島沖にて、山本智之撮影。

海底を這う「ハツユキダカラ」=静岡県・伊豆半島沖、山本智之撮影

■日本の海には約90種が生息

 貝殻に美しい光沢があり、「海の宝石」と呼ばれるタカラガイ。世界に250~300種(亜種を含む)、日本の海には約90種が生息しています。

美しい光沢を放つ「ホシキヌタ」(左)と「カモンダカラ」(右)の写真。海底を這う「ハツユキダカラ」の写真。いずれも静岡県・伊豆半島沖にて、山本智之撮影。

美しい光沢を放つ「ホシキヌタ」(左)と「カモンダカラ」(右)=いずれも静岡県・伊豆半島沖、山本智之撮影

 葉山しおさい博物館の元館長で、貝類に関する図鑑や書籍を数多く手がけている池田等さんは、タカラガイについて「貝殻に独特な丸みがあり、手触りが良く、美しいつやがある。色や模様のバリエーションが豊富なことも魅力です」と語ります。

■陶磁器のような美しい光沢

 池田さんは膨大な貝類標本のコレクションを所有していることで知られ、貝の採集歴は約60年にもなります。

 私自身も5歳のときから貝類を集めており、木製の標本箱に入れて整理してきました。私が保管しているコレクションの中から、24種のタカラガイをピックアップしたのが次の写真です。タカラガイの貝殻の模様は種ごとに様々ですが、どれも陶磁器のような美しい光沢があります。

様々な色や模様のタカラガイ。1 段目(ウキダカラ、ホシダカラ、ヨツメダカラ、ヤナギシボリダカラ)、2 段目 (ヤクシマダカラ、スソヨツメダカラ、スソムラサキダカラ、オミナエシダカラ)、3 段目(クチムラサキダカ ラ、クチグロキヌタ、キイロダカラ、カノコダカラ)、4 段目(コモンダカラ、ジャノメダカラ、イボダカラ、ホ シキヌタ)、5 段目(ヒロクチダカラ、ヒメホシダカラ、ハツユキダカラ、ハナマルユキ)、6 段目(ハチジョウ ダカラ、アヤメダカラ、ラマルクダカラ、スミナガシダカラ)の写真。いずれも山本智之撮影。

様々な色や模様のタカラガイ。1段目(ウキダカラ、ホシダカラ、ヨツメダカラ、ヤナギシボリダカラ)、2段目(ヤクシマダカラ、スソヨツメダカラ、スソムラサキダカラ、オミナエシダカラ)、3段目(クチムラサキダカラ、クチグロキヌタ、キイロダカラ、カノコダカラ)、4段目(コモンダカラ、ジャノメダカラ、イボダカラ、ホシキヌタ)、5段目(ヒロクチダカラ、ヒメホシダカラ、ハツユキダカラ、ハナマルユキ)、6段目(ハチジョウダカラ、アヤメダカラ、ラマルクダカラ、スミナガシダカラ)=いずれも山本智之撮影

■巻貝らしくない巻貝

 タカラガイの分類上の位置づけは「軟体動物門・腹足(ふくそく)綱・吸腔(きゅうこう)目・タカラガイ科」。つまり、巻貝の1グループです。しかし、タカラガイの貝殻は、一見すると巻貝らしくありません。

日本の暖海域でよく見られるタカラガイ類の一種のハナビラダカラの写真。いずれも山本智之撮影。

ハナビラダカラ。日本の暖海域でよく見られるタカラガイ類の一種=山本智之撮影

 タカラガイが「巻貝らしくない」理由について、池田さんは「貝殻に、ホラガイのような螺旋(らせん)状の構造が見当たらないからでしょう」と話します。タカラガイの殻口は非常に狭く、しかも、「歯(は)」と呼ばれるギザギザした突起が並んでいるので、ますます巻貝らしくありません。

 でも実は、タカラガイも幼貝のうちは、ほかの巻貝のように殻口が広くなっています。成長すると殻の厚みが増し、殻口が狭くふさがれることで、独特の姿になるのです。

■タカラガイを切断してみた

 私は特殊な工具を使って、タカラガイの貝殻を切断してみました。材料に使ったのは、日本の暖海域でよくみられる「ハナビラダカラ」(Monetaria annulus)です。

ハナビラダカラ(左)とその断面(右)の写真。いずれも山本智之撮影。

ハナビラダカラ(左)とその断面(右)=山本智之撮影

 こうして断面を見ると、貝殻の内部ではきれいに渦を巻いており、巻貝の一種であることがよく分かります。

■殻のサイズが19cmの大型種も

 ハナビラダカラは殻の長さ(殻長)が2~3cmの小さなタカラガイですが、世界の海には非常に大きくなる種もいます。大西洋西部に分布する「シカダカラ」(Macrocypraea cervus)は殻長が最大で19.05cmに達します。

 シカダカラに次いで大きいのは「ホシダカラ」(Cypraea tigris)で、世界ランキングでは最大個体の殻長は15.29cmです。ホシダカラは日本の海にも分布しますが、国産の最大サイズは12.5cmまで。このため、国産タカラガイの最大の個体は、殻長13.15cmの「ムラクモダカラ」(Chelycypraea testudinaria)とされています。

 タカラガイはほとんどの種が、温暖な海域の浅い場所に生息しています。ただ例外もあり、「アケボノダカラ」(Nesiocypraea midwayensis)のように水深350~600mの深海にすむ種もいます。

■日本の「三名宝」

 タカラガイの中でも、特に希少で美しい種は「三名宝(さんめいほう)」と呼ばれています。「世界の三名宝」と「日本の三名宝」がそれぞれあります。日本の三名宝は「テラマチダカラ」(Nesiocypraea teramachii)、「ニッポンダカラ」(Austrasiatica langfordi )、「オトメダカラ」(Austrasiatica hirasei)の3 種です。

池田等さん提供の日本三名宝。左から「オトメダカラ」「ニッポンダカラ」「テラマチダカラ」の写真。

日本三名宝。左から「オトメダカラ」「ニッポンダカラ」「テラマチダカラ」=池田等さん提供

 希少なタカラガイは、世界のコレクターの間で高い値段で取引されています。タカラガイの価格は、どの種類かということに加え、サイズや色、形、産地によっても大きく左右されます。

 池田さんは「たとえばテラマチダカラの場合、最大級のサイズで、状態が良い日本産の貝殻だと100 万円以上で買う人もいるだろう」と話します。

■美しさの秘密

 タカラガイの貝殻には、なぜ美しい光沢があるのでしょうか。その理由は、生きた個体を海中で観察するとよく分かります。

 貝の体の部位のうち、「外套膜(がいとうまく)」と呼ばれるマントのような部分が、貝殻を包み込んでいるのです。

タカラガイ(メダカラ)の貝殻と外套膜の写真。山本智之撮影。

 池田さんは「外套膜によって保護されているため、殻のつややかさが保たれる。外套膜で包むことで、フジツボなどの付着生物もつきにくくなる」と説明します。

 外套膜には、炭酸カルシウムを分泌して貝殻を形成する働きもあります。炭酸カルシウムと色素を何層も塗り重ねることで、複雑な模様を生み出すことも可能になるのです。

■マントの内側に隠された美しい貝殻

 タカラガイの中には、「カノコダカラ」(Cribrarula cribraria)や「アジロダカラ」(Palmadusta ziczac)のように、外套膜の色が鮮やかな種類もいます。

海底を這う「カノコダカラ」(左)と「アジロダカラ」(右)の写真。いずれも山本智之撮影。

海底を這う「カノコダカラ」(左)と「アジロダカラ」(右)=いずれも山本智之撮影

 ただ、「チャイロキヌタ」(Palmadusta artuffeli)や「クチグロキヌタ」(Erronea onyx)などにみられるように、タカラガイの多くの種は、外套膜が地味な色をしています。

「チャイロキヌタ」(左)と「クチグロキヌタ」(右)の写真。いずれも山本智之撮影

「チャイロキヌタ」(左)と「クチグロキヌタ」(右)=いずれも山本智之撮影

 これらの種は、「地味な色のマント」に身を包むことで、周辺の海底の景色に溶け込み、外敵から身を守るのに役立っている可能性があります。

 静岡県・伊豆半島の海でよくみられる「ハツユキダカラ」(Naria miliaris)や「オミナエシダカラ」(Nariaboivinii)の外套膜は、まるで「ボロぞうきん」のように見えます。地味なぞうきんの内側に、宝石のような貝殻が包み隠されているのです。

外套膜で貝殻を覆うタカラガイの写真。いずれも山本智之撮影。

■食用にする地域もある

 タカラガイは、貝殻の美しさから工芸品の材料に使われることもあります。沖縄などの土産物店では、「ハナビラダカラ」や「ホシダカラ」などを使った貝細工やランプなどを見かけます。また、「ホシダカラ」や「ハチジョウダカラ」(Mauritia mauritiana)などのタカラガイ類を食用に利用している国や地域もあります。

タカラガイを材料にした工芸品。左から時計回りに「ハナマルユキとハナビラダカラを使った亀の貝細工」「ホシダカラのランプ」「ハナビラダカラの貝マット」の写真。いずれも山本智之撮影。

タカラガイを材料にした工芸品。左から時計回りに「ハナマルユキとハナビラダカラを使った亀の貝細工」「ホシダカラのランプ」「ハナビラダカラの貝マット」=いずれも山本智之撮影

■中国などで「貨幣」として使われた

 小型で黄色い色をした「キイロダカラ」(Monetaria moneta)は、中国やインド、アフリカ、太平洋の島々で「貨幣」として使われた歴史があります。キイロダカラの学名に含まれる「moneta」という言葉は、お金を意味します。

 貝殻を利用した貨幣は「貝貨(ばいか)」と呼ばれ、キイロダカラは中国で「殷(いん)」の時代から使われていました。お金に関係した漢字には、「買」や「財」、「費」など「貝」が部首となっているものが多いですが、そもそも「貝」という漢字は、タカラガイの形を象形化したものとされています。

 歴史的に世界各国で「貝貨」としてよく使われたタカラガイ類としては、「キイロダカラ」のほかに「ハナビラダカラ」が挙げられます。

■地球温暖化で分布が北上

 池田さんは、神奈川県の相模湾沿岸で60 年間近くにわたり、海岸に打ち上げられる貝類の観察を続けてきました。地元の新聞に1989 年1 月に寄稿したコラムの中で、タカラガイの一種「ヤクシマダカラ」(Mauritia arabica)について「相模湾で採れるのは幼貝ばかりで、成貝は見つかっていない」と書いています。

 タカラガイは南方に起源があるため、寒さに弱い。ヤクシマダカラの幼生は、南の海から黒潮に乗って相模湾に到達するが、厳しい冬の寒さのため、親になれないうちに死んでしまう――。当時のコラムでは、そのように説明していました。

池田等さん提供のヤクシマダカラの幼貝(左)と成貝(右)の写真。

ヤクシマダカラの幼貝(左)と成貝(右)=池田等さん提供

 ところが、池田さんによると、神奈川県の三浦半島では2005 年ごろから、立派に成長した「ヤクシマダカラ」の成貝が採集されるようになりました。「相模湾の海を60 年近く見続けていて、こうした現象は初めて」と池田さんは言います。

 浜辺に打ち上げられるヤクシマダカラの成貝。それは、昔に比べて海水温が上昇した影響で、相模湾に流れ着いたヤクシマダカラの幼生が死滅せずに越冬し、成貝になった証拠です。ヤクシマダカラのほかに、「ホシダカラ」の成貝も、2010 年ごろから三浦半島で採集されるようになっています。

 タカラガイは、主に熱帯~亜熱帯の温暖な海に生息する「南方系の貝類」です。しかし、地球温暖化による海水温の上昇に伴って、その分布はいま、より高緯度の海へと広がりつつあるのです。

新刊のご案内

■タカラガイを知る~おすすめの1 冊

『新訂 タカラガイ・ブック 日本のタカラガイ図鑑 Cowries of Japan』

池田等・淤見慶宏 共著 2026 年5 月刊行(成山堂書店)

B5 判 232 ページ 3,960 円(税込)
お申し込みは→ こちら

タカラガイを知るおすすめの1 冊。『新訂 タカラガイ・ブック 日本のタカラガイ図鑑 Cowries of Japan』本の表紙の写真。

 タカラガイについて、もっと知りたい――。そんな人におすすめの一冊です。2017 年発行の『タカラガイ・ブック 改訂版』をさらにバージョンアップ。日本に分布するタカラガイ89種を対象に、その特徴や分布、生息環境などを詳しく解説しています。特筆すべきなのは、ビーチコーミングの際によく見かける「摩耗した個体」や「幼貝」の写真を豊富に掲載していること。世界の主なタカラガイも45 種、美しい写真で紹介しています。

■筆者プロフィール

科学ジャーナリストの山本智之氏の写真

山本智之(やまもと・ともゆき)
1966年生まれ。科学ジャーナリスト。東京学芸大学大学院修士課程修了。1992年朝日新聞社入社。環境省担当、宇宙、ロボット工学、医療などの取材分野を経験。水産庁の漁業調査船「開洋丸」に乗船し、南極海で潜水取材を実施。南米ガラパゴス諸島のルポを行うなど「海洋」をテーマに取材を続けている。2025年2月には、海上保安庁の巡視船「そうや」の海洋観測に同行した。朝日新聞科学医療部次長、朝日学生新聞社編集委員などを歴任。著書に『温暖化で日本の海に何が起こるのか』(講談社ブルーバックス)、『ふしぎ?なるほど!海の生き物図鑑』(海文堂)ほか。X(ツイッター)は@yamamoto92